第12回 菖蒲と肥薩おれんじ鉄道

 [花鉄の部屋]第12回は菖蒲の群生を眺めながら走る肥薩おれんじ鉄道です。

タイトル= 花菖蒲の郷を行く
撮影者= 西井伸樹
撮影地= 鹿児島県出水(いずみ)市野田町


 肥薩おれんじ鉄道は九州新幹線の開業に伴い、2002年(平成14年)に設立されました。JR九州から経営移管された八代駅(熊本県)〜川内駅(鹿児島県)の28駅間の116.9kmは第三セクター鉄道として、青い森鉄道(青森県)に次いで長い営業距離を誇る路線です。


 誰もが「わぁ〜」と思わず声をあげてしまいそうな一面(!)の菖蒲畑は、肥薩おれんじ鉄道で「野田郷駅」 (出水市)から「折口駅」 (阿久根市)へ向かう左手に突如出現します。約40アールの休耕田を利用して70種・数十万本が育てられています。カメラ片手に全国を飛び回っているという撮影者の西井氏は、鉄道ファンの知人(鹿児島県在住)の車で、沿線をロケハン中に菖蒲畑に遭遇。時刻表を確認すると上り下り1本ずつの普通列車が通過する── 菖蒲畑と列車をどう撮るか悩まれたそうです。
今号の画像はその中の1枚。多くの人が菖蒲を楽し
みながら散策する中、通過する車両を撮影した西井氏は「見事に咲いた菖蒲を眺める乗客の皆さんの笑顔が印象的な一場面でした」と教えて下さいました。
 「ブログをご覧頂く方に、花を通じて四季を伝え感じて欲しい」という西井氏のブログ[どら焼き親父写真館]には、日本各地の「花鉄」だけでなく、氏がマンホールの意匠を撮った膨大なコレクション画像を見ることも出来ます。
 美しい菖蒲の群生を「江戸小紋の優雅な花柄をひろげたようであり、また白鳥が重なりながら紫の鳥を抱いて飛ぶような、浮世離れの清らかな眺め」(『葛飾の女』より)と表現したのは小説家の芝木好子(1914ー1991)でした。保水性の土地を好む単子葉植物である菖蒲は、薬草・漢方薬としても知られています。また、その形状や香りが邪鬼を祓うとして端午の節句には軒に吊るしたり、菖蒲の束を浮かべた菖蒲湯に入る風習が残っています。

 

 

[花鉄(はなてつ)]とは細分化されている鉄道ファンは、乗ることが好きな「乗り鉄」「旅鉄」、撮影専門の「撮り鉄」、その発車ベルや走行音のファンを「録り鉄」、駅弁を食べ歩く「食べ鉄」、女性の鉄道ファンを「鉄子」などと呼ぶことがあるそうです。そこで、私たちは各地で出会える「花」と「鉄道」が共生する素敵な風景を、勝手に「花鉄」と名付けて愛し続けることにしました。


  flower with railway vol.12