種蒔きから収穫までの期間が短い蕎麦は、かつては稲作に不向きな荒れ地や寒冷地での救荒作物として栽培されていましたが、減反政策後は、稲作からの転作が増えています。国内 作付面積も1986年(昭和61年)の19,600haから、2008年(平成20年)の47,300haと右肩上がりとなっています。主食とは言わないまでも、日本人の蕎麦好きは相当なもの、日本中に蕎麦屋の無い町は無いでしょう。最もポピュラーな噺である『時そば』を持ち出すまでもなく、江戸っ子の蕎麦好きも有名です。テレビでひと頃話題となった「大食い」ブームですが、同じような食べ比べは江戸時代にもあり、酒や丼飯、饅頭などの量を競っては「賭け」にしていたという記録が残っているそうです。蕎麦の大食いによる「蕎麦賭け」を 主題にした噺が今号の『そば清』です 。  
  毎度おなじみ、おっちょこちょいの江戸っ子連中が集まる町内の蕎麦屋。見慣れぬ男の食べっぷりを見て彼らが賭けを挑みます。蒸籠(せいろう)を15枚食べたら一分(1/4両)、20枚で二分、翌日には30枚で一両…ブツブツ言いながらも、その都度食べ尽くしては「ど〜も〜」と賭け金を持ち帰る男=清兵衛。実は「そば清」と呼ばれる無敵の蕎麦っ食い、「蕎麦賭け」だけで家を建てたほどの大食漢でした。
正体がばれた清兵衛と、このまま負けては江戸っ子の恥という連中の執念がぶつかり合って、蒸籠の枚数も掛け金もエスカレートしていきます。少し弱気になった清兵衛は、勝負を先送りにして所用で江戸を離れます。その旅先で、人間を丸呑みにして苦しむウワバミ(=大蛇)に出くわします。隠れて見ているとウワバミが道端の草をペロリと舐めて消化薬にしている事を知ります。清兵衛は、その草を摘んで江戸に持ち帰り、いよいよ勝負が再開されますが…。



[旬の噺]は、季節の草花や農作物が登場する噺(=落語)の世界を紹介するコーナーです。