花や緑、農漁産物などが登場する噺(=落語)の世界を紹介するコーナーです。第15回の噺は『たけのこ』です。
 竹冠に旬と書いて「筍」。掘りたてはアクもなく刺身でも美味しく食べられます。一方で自由奔放な地下茎を持ち、思いも寄らない所から頭を出して修景を壊してしまうのが欠点でもあります。

ある武家の主が下男に今日の菜(おかず)は「筍」だと訊き、「もう、そのような季節になったか」と感慨深げ。「して、何処よりの到来物(手土産)か?」と尋ねても、「では出入りの行商人より購ったものか?」と尋ねても違うという。なおも問い詰めると、隣家の筍が我が屋敷の庭に頭を出したのだという。
 「馬鹿者! それでは盗人ではないか!渇しても盗泉の水を飲まずというのが武士の心得じゃ、知れれば切腹ぞ。」と怒鳴られた下男は、まだ採ってはいないので許して下さいと平伏す。「それでは急いで採って参れ。筍はワシの好物、堅くなってはかなわん。今言ったのは表向きの事じゃ、赦せ。」と笑う主。
 日頃から馬の合わない隣の武家の爺の筍を採って喰らうは愉快、しかし、黙っているのも些か抵抗がある。そこで下男を使いに出し、「実は、ご当家様の筍殿が手前の屋敷の塀越しに土足で踏み込んで参りました。戦国の世であれば、まさしく間者(スパイ)同然の振る舞い。不埒ゆえに手打ちと致しますが、この段ご承知置き下さいますよう。」という断りを入れました。

 しかし敵(隣家の武家)も然る者──「なんと! 日頃より戒めておったつもりであったが誠に申し訳ござらん。お手打ちの儀、ごもっともにござる。委細承知仕った。だが、長らく当家において、慈しみ育てたる筍め故、何とぞ武士の情けと思い、亡骸だけはお下げ渡しを願いたい。なお鰹節殿を供に付けて下されば、これに勝る喜びはござらん。主殿へ宜しくお伝え願う。」とニヤリと笑い、下男を追い返す。
 すべてを見透かされた一枚上手の反撃に遭い、更なる対抗策を練った主は新たな口上を教え、もう一度下男を隣へ遣って「不埒な筍殿は既に当方において手討ちに致し、遺骸は手篤く腹の内へと葬り申した。骨は明朝、寺へ納めることになっております。これは筍の形見でござる。」と竹の皮だけを持って往かせた。これを受け取った隣家の武家、「なんと。最早手討ちにされ、変わり果てた姿に相成ったかぁ。あぁ、可哀(かわい)や、皮ぁ嫌ぁ〜。」 

老獪な武家同士の頓知の利いたやりとりですが、特に隣家の爺は「なお鰹節殿を供に」とやり返して、筍の調理方法まで見事に看破していますね。

【筍の土佐煮】
筍を使った料理は、正月のおせち料理でも定番。その由来は「子供らの勢いある成長と家運の伸長を願う」とされています。お酒の肴にも最適な土佐煮。年末年始、九州地方では超早掘りの筍が出始めているとはいえ、多くは水煮を使うことが多いようです(水煮の場合、切り口に残っている白い塊はアクなのでよく洗い落として下さい)。まず、@だし汁を鍋で強火にかけます。煮立ったらひと口大に切った筍を入れて柔らかくなるまで煮ます。A筍が柔らかくなったら、砂糖・醤油・味醂・酒を各適量入れ、落とし蓋をして中火で10分ほど煮ます。B落とし蓋をはずし、花かつおをひと掴み入れ、ひと混ぜして火を止めます。C粗熱がとれたら器に盛って、木の芽を添えて出来上がり。【材料(2〜3人分の目安です)】水煮たけのこ300g・だし汁1+1/2カップ・砂糖大さじ1+1/2・醤油大さじ2・味醂1/4カップ・酒1/4カップ・花かつお・木の芽

[旬の噺]は、季節の草花や農作物が登場する噺(=落語)の世界を紹介するコーナーです。