公益財団法人花と緑の農芸財団
旬の噺16 ほおずきと「船徳」
各地の水郷では、今も観光舟を操る船頭さんが活躍中。

 花や緑、農漁産物などが登場する噺(=落語)の世界を紹介するコーナーです。 第16回の噺は『船徳』です。
 放蕩三昧、道楽が過ぎて勘当されてしまった大店の若旦那・徳兵衛。知り合いの船宿に居候をするうちに船頭の粋な姿に憧れ一念発起、「今日からは“徳”と呼んでくれ」と船頭になると宣言します。しかし、箸より重いものを持った事のない優男、失敗ばかりで一人前にはほど遠い。船宿の親方や女将は期待もせず、叱る事もせずに放っておいた。

 夏の或る日、ふたり連れのなじみ客が船宿を訪れますが、その日は浅草寺の「四万六千日」の賑わいで船頭がすべて出払っていました。「申し訳ございません」と断りをいれる女将に、「そこに船頭がいるじゃねえか」と客が指差した先にはだらしなく居眠りをする徳兵衛。船頭の格好はしているが大切なお客を乗せる事は出来ないと言い訳をしている女将の声で起き、すっかりその気になった徳兵衛は髪を整え、髭を剃って準備万端客を乗せ、いざ漕ぎ出そうとするが舟の舫いを解いていなかった…心配する女将を後に残して舟は進もうとするが、同じ所を廻るばかり。竿遣いも下手で「この船ぁ、石垣が好きなんで」などと言い訳をして岸にへばり付いたまま動かなくなる始末。しかも客の苦情に逆切れ。何とか漕ぎ出すが川の真ん中で精根尽き果て客を降ろしてしまう。客は仕方なくひとりを背負って浅瀬を歩き、ようやく岸に着いた。「船頭さーん、こっちは上がったけど、そっちは大丈夫か?」と心配して訊ねると、「船頭をひとり雇って下さぁ〜い」…と応える情けない徳兵衛でした。

 この『船徳』は『お初徳兵衛浮名桟橋』という噺の前段部分。中段以降ではドジな徳兵衛も芸者衆にモテる一人前の船頭になり、艶っぽい話から心中騒ぎの末のハッピーエンドへと続きます。籠かばふ鬼灯市の宵の雨 水原秋桜子
 東京では春が過ぎ夏が近づくと植木市、朝顔市、ほおずき市が次々と催されます。ほおずき市は観音様の千日参り、この日お参りをすると四万六千日(126年分!) の功徳があるとされる7月10日と、その前日に浅草寺境内で催されます。四万六千日という数字の根拠や、ほおずきとの関連には諸説あるようです。ほおずきを盆提灯に見立てたとも、多くの参拝客に薬草として売り始めたとも云われています。また、古い言い伝えに由来するという「雷除札」もこの日限り売られています。

 ほおずきはナス科ホオズキ属の多年草。かつては食用や薬草として利用されましたが、今では主に観賞用として愛されています。よしず囲いの出店が数多く並ぶほおずき市では、吊るし竹籠に江戸風鈴などをあしらった鉢植えが定番になっています。ほおずきは、葉の付け根にナスの花によく似た可憐な白色(薄黄色)の花が咲きます。完熟前の実に小さな穴を空け、中の種や果肉を上手に取り出して風船状にし、口の中で鳴らす遊びをした方も多いのではないでしょうか。ほおずきの花 by 草花写真館
 それにしてもほおずきは、漢字で書くと「鬼灯」と「鬼」の字があてられ、しかも「半信半疑」「偽り」「欺瞞」という花言葉…あんまりではないですか?