公益財団法人花と緑の農芸財団

花や農漁産物が登場する落語を紹介する「旬の噺」の第23回は『初天神』。
正月25日に行われる天満宮の縁日が「初天神」。この日は祭神である菅原道真公(845-903)が不本意な左遷の命を受けた日とされ、道真公の霊を慰めるために梅の小枝を供えるなど、各地の天満宮で様々な神事が行われます。
---長屋に暮らす熊五郎が女房に羽織を出させてひとりで初天神に行くという。「だったら金坊も連れて行っておくれよ」と女房。「イヤだよぉー」「自分の子供をイヤって事があるかい!」「連れてきゃあれ買えこれ買えってうるせえんだから俺ぁイヤだ」。
家に居ると何かとうるさい金坊を亭主に押しつけようとする女房と熊五郎の喧嘩を「ご両人、家庭に波風を立てちゃいけないョ」などと仲裁する生意気盛りの息子の金坊。ひと悶着の末、連れては行くが”何も買わない事”を約束させて父子で初天神へ。

境内に着くと、屋台が軒を連ねている。案の定あれこれネダり始める金坊。適当にあしらいながら進むと「お父つぁん、これまで我慢してたんだから褒美に飴玉を買っとくれよぉ」とゴネる。根負けして「一個だけだぞ」と買い与えると、誤って飲み込んでしまったと言って泣き出す。「往来でみっともねぇ」と叱るとさらに大声で泣くので閉口する熊五郎に「じゃあ、団子買っとくれよぉ」と金坊。「お前なんか連れてくるんじゃなかった」と熊五郎。たっぷり蜜(タレ)の付いた団子を買い与えるが、着物を汚すといけないので熊五郎が蜜を「全部」舐めてから手渡すと「そんなのイヤだ」とまた泣き出す。仕方が無いので舐めた団子を(屋台のオヤジの制止も聞かず)蜜壺にドボンと浸けて「ほいっ」と渡す。金坊も蜜を全部舐めてから、親の真似して壺にドボン。「とんでもねぇ親子だぁ!」と怒る屋台を後にすると、今度は「凧を買っとくれよぉ」・・・もう、こうなると完全に金坊のペース。
言い負かされて凧を買わされ近くの空き地へ。最初は凧の揚げ方を教えていた熊五郎だが、やがて自分が夢中になり凧糸を独占して金坊に渡さない。金坊が文句を言うと「うるせぇ、あっちへ行ってろ」と怒鳴る始末。そこで金坊「こんな事なら、お父つぁんを連れてくるんじゃなかった」・・・。
「二度浸け禁止!」の蜜壺に父子揃ってドボンと団子を浸けながら、ベタベタの蜜をきれいに舐め上げる仕草には思わず笑いが込み上げます。

---この団子、砂糖と醤油の甘辛蜜の「みたらし(御手洗)団子」は、今も庶民に愛される和菓子屋さんの定番商品。
団子には米粉(上米粉や白玉粉など)が使われています。もち米やうるち米を原料にした米粉は、日本では昔から団子などの和菓子や煎餅などに使用され、アジア各地でも「フォー」や「ビーフン」などの麺類や「ライスペーパー」などが食べられています。
平成20年(2008)以来農水省が推進している食料自給率向上のための”FOOD ACTION NIPPON”の一環として、あるいは健康志向や輸入小麦の価格高騰を受けて日本では米粉ブームが興り、米粉用米の生産量も劇的に伸びました。

昔に比べて製粉技術も向上し様々な新商品が登場。パンやベーグルやドーナッツはもちろん、麺類・パスタ・ピザやライスミルクなどの他、唐揚げや天ぷらにも米粉を応用したレシピが誕生しました。こうして米粉の需要は着実に伸びているものの、残念ながら米粉用米の国内生産量は平成23年(2011)をピークに減少しているそうです。




本記事は花の心82号(2016年/春号)に掲載されたものです。