そんな時に出会った松澤登美雄氏(※)の木彫り人形に影響を受けて、初めて農家のおばあちゃんの人形を作りました。ようやくまゆみさんの目は、豊かな里山に生きる「人々」に向けられたのです。その「おばあちゃん人形」に勇気づけられ、人形公募展へ初めて出品。1998年(平成10年)、ユザワヤ創作大賞の人形部門で銀賞を受賞しました。作家としての創作意欲は益々増すばかり。「人形もある程度、売れるようになってきて、固定客もついた」…個展がしたいと願ったまゆみさんは、ある日「パートを辞めて、人形を仕事にします」と家族に宣言
「次から次へと、近所の素朴な年寄りの姿を人形に映し出す日々」が続きました。
1999年(平成11年)、東京・広尾のギャラリーで初の個展を開催。その後の作品集出版、テレビ出演などの精力的な活動は、作品たちの全国(90ヶ所以上)巡回展へとつながっていきました。
ご存じのように、高度成長期以降日本の農業を支える人々の年齢は高齢化の一途を辿っています。昨年度(2009年)の農林水産省の調査によるとその約72%が60歳以上となっています。(右図参照)
確かに生活の利便性はいっきに進み、農業だけでは、近代的な暮らしは賄えないことも事実です。村には産業がない。産業がないから若者たちの働く場所が得られない。現金収入のための出稼ぎ、他所へ働きに出るようになる。働き手や若い労働力がどんどん都会へ流出する。若者がいないから「結」のような農業の共同体も自警団や消防団、村祭りも成り立たない。村々には「ないない尽くし」の現状のみが残され、日本の農村風景も大きく変わりました。同時に農業の近代化、機械化によって多くの農民たちが重労働から解放されたことも事実です。もう二度と身を粉にして働かなければ明日の米にも事欠くような暮らしに逆戻りをしたいとは誰も思いません。
元来、あらゆる意味で機能的に作られてきた「農村風景」を維持していくためには、たくさんの知恵と弛みない勤勉さが必要です。現在に至るまで、それを維持し続けてきてくれたのは地元の老人力です。辛抱強く働く人々がいたからこそ尊い精神性が連綿と(かろうじて)継承されてきました。
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作品名[頑固ばあさんの家出]
お嫁さんの味方ばかりする息子に愛想を尽かしたばーちゃん。
先立ったじーちゃんの位牌を右手に、左には枕を持って家出の決行です。隣村の幼なじみの家でひとしきり愚痴をこぼした後は、孫への土産でも持って笑顔で帰って来るはずです。
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