おむすびの呼び名同様、その形にも様々なものがあります。三角形、俵形、ボール形、太鼓形…。これも地域差が大きいようです(右頁調査マップ参照)。市販されているおむすびを見ても、具が入って海苔が巻かれている一般的なおむすびは三角形が多いようですが、赤飯や混ぜ御飯のおむすびには俵形が多いような気がします。下のアンケートグラフは「あなたのご家庭でもっともよく作る形は?」という問いによる回答結果です。あくまでホームメイドのおむすびですが90%近く、やはり圧倒的に三角形が多いことが分かります。



出典:ごはんを食べよう国民運動推進協議会(兵庫県農政環境部内)実施「第9回 おむすびの日記念アンケート」より【応募期間】2008年1月4日〜2月29日 【応募方法】インターネット、携帯ウェブ 【回答者数】30,318人


 おむすびの元祖「屯食」には、その形が鳥の卵の形をしていたことから「鳥の子」という別名があるという記録が残っています。鳥の卵の形といえば、尖りの少ないラグビーボールのようなもの…。実際におむすびを結んでみると分かりますが、両手を使わず片手で結ぼうとするとなるほど鳥の卵形になるのです。急いでたくさんのおむすびを必要とする時には便利だったのかもしれません。
 前出の昔話『おむすびころりん』では、野良仕事に行ったおじいさんが食べようとしたおむすびを誤って落としてしまい、それがコロコロと転がってねずみの穴へ…というシーンが出てきますが、この時のおむすびはボール形でないとなかなかコロコロとは転がりませんね。では、いつ頃から三角形のおむすびが登場するかというと国定教科書が定められた明治36年(1903年)頃の小学校教科書に載った昔話『サルカニ合戦』の挿絵のおむすびが三角形となっていた事が始まりという説が有力です。しかし、江戸時代の『近世風俗志』では「江戸にては、円形あるひは三角等」として既に三角形の握り飯が記されています。また、おむすびの名の由来として古事記に登場する「むすひ(産巣日または産霊)」を挙げる説では山を神格化し、その霊力を授かるため三角形なのだとも言われています。俳人で作家の高濱虚子(1874−1959)は、
「京都の学校に居た頃は、下宿している処でこしらえてもらったお結びを持って、一人とぼとぼとよく郊外に出かけた。それは何となく郊外に出かけてみたくなったためであった。草に腰を下ろしてそのお結びを食べた。前方に聳えている山は叡山であった。ふと、叡山の形がその三角のお結びに似ていると思った。お結びをかじりながら、故郷に老いている母のことを思い出した。」
と、図らずもおむすびの三角形を山の形に例えています。これは当時、正岡子規からすでに「虚子」の俳号を与えられ、京都の第三高等学校(現・京都大学)に進んでいた頃の思い出(参考E)として書かれたもの。ちなみに虚子の母が握ってくれたおむすびは、きれいに形が整った三角形だったそうです。




 民俗学者の柳田國男(1875−1962)は、信州地方で年取りの晩(大晦日)に供えられる「ミタマサマノメシ(御霊様の飯)」を例にとりながら、あくまで「仮説であって勿論重々の検討を必要とするが」と理を述べながらおむすびの三角形について「三角に結ぶのは手の自然の動かし方によるものと、何でも無く解して居る人が有るかも知れぬが〜(中略)〜自分の想像を言って見るならば、是は人間の心臓の形を、象って居たものではないかといふのである。食物が人の形体を作るものとすれば、最も重要なる食物が最も大切なる部分を、構成するであらうというのが古人の推理」と記しています。また、「私は今まで色々の場合に、上の尖った三角形がいつも人生の大事を表徴して居るやうに感じて居る。」とも書いています。(参考F)


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