毎年[花と緑と農芸の里]では、子供たちと一緒にお米づくりをしています。
田んぼで汗を流した後には全員で昼食をいただきます。メニューはおむすびと豚汁。
「いつもは全然ご飯を食べなくて困っているのに、おむすびだとたくさん食べるんです」と話してくれる保護者の方が数多くいらっしゃいます。

普段は幼稚園児並の小さなお弁当で満腹という財団スタッフも
「今日はおむすび六個も食べちゃった!」とニコニコ笑っています。
単なる食べ物ではない「何か」が結び込められた手作りおむすびの不思議。
今号の「おむすび礼賛・前編」では、その歴史について[探]してみます。



おむすび――その期限。縄文時代後期に大陸から稲が渡来、長い年月を掛けて日本各地に稲作文化と共に、お米(当時はうるち米や赤米・黒米などのもち米)を蒸して食べる方法が広まった頃のこと。弥生時代中期(紀元前200年以降)の杉谷チャノバタケ遺跡(石川県鹿西町=現中能登町)から1987年(昭和62年)に「日本最古のおむすび」が発見され、話題になりました。正確には蒸した古代米を用いた[チマキ状炭化米塊]と呼ばれる二等辺三角形の黒い塊(右頁画像)です。

すでに私たちの祖先は狩猟時代を経て定住化、後に小国家となっていく集落が形成されて小競り合いを起こしていた時代、食事を保存・携帯する必要が生じていたのでしょう。おむすび同様、便利な食糧として発明されたお餅は「持ち飯」、その語源は「長持ち」や「持ち歩く」であるという説があります。
 時代を経て律令国家になると、兵役が生じます。平安時代(794-1192年頃)には、公家などが互いの館に招かれた際、庭先に控えるその従者などに与えられた飲食の中に、[屯(頓)食](とんじき)が登場します。これは、蒸した玄米などを供する時に椀や皿を必要としないよう握り固めたもので、これをおむすびの原型とするのが最も有力な説です。また、文学上も『源氏物語』第一巻『桐壺』に、屯食、禄(ろく)の唐櫃(からひつ)どもなど、ところせきまで、春宮(とうぐう)の御元服の折にも数まされり(参考@)
との記述があり、元服の祝いの時などに帝の御前に献上された食物として屯食が登場しています。屯(頓)という字には「駐屯」のように「とどめる」という意味の他に、「とみに」とか「急に」という意味もある(参考A)ので、非常時の携帯食として利用されていたことも推測されます。

 「腹が減っては戦ができぬ」――現代でも究極のファストフードは兵糧であるといわれますが、その後、武家の時代へなるにつれ戦時の携帯食としてのおむすびが歴史上に度々登場します。その頃の兵士の携帯食と言えば「生米」や、お米をモミのまま焼いた「焼き米」のほか、お米を乾燥させた「干飯」(ほしいい)・「糒」(ほしい)などがあり、これらは糧袋(りょうぶくろ)という麻の袋に入れて持ち歩き、水(あるいはお湯)で戻して食べたとされています。紛争地域が狭かった源平合戦の頃は、食事時に一旦兵を引き、その後勝負を再開したそうですが、鎌倉時代になり領土拡充を目的とした行軍の兵糧としておむすびが用いられたのではないでしょうか。この時代には、鉄製の釜が普及し、それまで蒸して食べていたお米を「炊いて」食べる方法が一般化していきます。時代劇などで鍋釜を背負って戦場へ赴くシーンがありますが、こうした兵士の「自分持ち」の兵糧としての米飯やおむすびは後の戦国時代へも引き継がれます。
▲杉谷チャノバタケ遺跡から発掘されたチマキ状炭化米塊。底辺約5cm・高さ約8.5cm・厚さ約3.5cm/財団法人石川県埋蔵文化財センター・蔵

 
おむすびの歴史を紐解くと、まるで戦の歴史そのもののようにも感じますが、それはあくまで「表」の歴史であり、歴史に名を残さない一般の領民や農民たちのあいだでは、おむすびという呼び名があるにせよ無いにせよ、麦飯や雑穀であったにせよ、便利な携帯食として田んぼや畑仕事などの間食として利用されていたことは想像に難くないでしょう。また、古来より米の信仰が厚かった農村では、豊作祈願や神事の際におむすびを捧げものとする風習があり、現在も全国各地で継承されています。

 長く続いた下克上の時代、国盗り合戦も終盤になるに従って兵糧分離が進められ、それまでの兵糧携帯の義務から兵士は解放されます。軽視個々人が携帯するよりも、中継地などの領民たちに義務として課し調達させる方が合理的であるということになりました。
兵糧の手配や調達に長けた武士が出世することもあったようです。
 「農時を違(たが)えざれば、穀は勝(あ)げて食ふべからざるなり」という言葉がありますが、その頃の戦は主に農閑期に行われいたので、冬の保存食がそのまま兵糧として工夫されることもあったようです。現在では、郷土食として有名な笹団子やほうとう、五平餅、きりたんぽ、南部煎餅などは陣中食として発達したのではないかとも言われています。


















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