――おむすびをつくる四人の女たち。
つくりながら、食べたり、手のごはんつぶをとったりしながら。
滝子「あら、巻子姉さん、三角なの?」
巻子「そうよ」
咲子「うち、俵じゃなかった?」
滝子「綱子姉さん『たいこ』型だ」
巻子「オヨメにゆくと、行った先のかたちになるの」
滝子「すみません、いつまでも俵型で」
さすがは会話の名手。映像を見なくてもこの会話だけで、姉妹の年齢順や、既婚未婚が分かってしまいます。
ちなみに現在コンビニなどで売られているおむすびの多くが三角形なのは、運搬時に型くずれしにくく、安定して陳列できるという理由の他に、
「おなじご飯の量でもこの形が一番大きく見えるからだそうだ。」(参考J)と裏事情を明かした資料もありました。
食通の漫画家東海林さだお(1937〜)が沖縄で出会ったのは「海苔を一枚敷き、その全域にゴハンを平らに押し広げ、片側に具を積み重ね、もう片側でパタンと閉じた」四角いおむすび。具はランチョンミート(通称ポーク)と、厚焼き卵と昆布の佃煮だったそうです。この珍しいおむすびを「実にもう齧りやすいんですね、四角くて平たいおにぎりは。丸や三角のものとまるで違う感覚で、なかなかいいじゃないの四角いおにぎり、と好感をもった。〜(中略)〜食べていて不思議な安心感がある。」(資料L)と彼は賞賛しています。もちろん沖縄のおむすびがすべて四角いわけではなく、三角も丸もあります。
沖縄では「アンマー(母親)のおにぎりが美味しいのはティーアンラがあるから」(資料M)と言われます。ティーアンラとは、方言で「手のあぶら」という意味ですが、転じて「愛情を込めて」「手のこんだ」「手塩にかけて」という意味に使われます。形はどうであれ、そこには結ぶ人の手から伝わる「思い」がある――これは、全国で食べられているおむすびに共通する大変重要な要素です。
おむすびがもつ携帯食としての役割を考える時、その具にはおむすびの保存性を損なわないもの、あるいは殺菌性を増すものが基本となります。定番の梅干しの場合は、それを入れないものより保存性が高まると言われています。しかも食欲増進や、血液中のアルカリ度を維持することで疲労を抑える効果もあります。「紅鮭」には、良質なたんぱく質と血液をサラサラにする成分が含まれていますし、「たらこ」には、エネルギー代謝に効果的なビタミンB1、ビタミンB2に加え、抗酸化作用を持つビタミンEが含まれています。これから夏場に向かって気温が上昇します。市販されているおむすびには、保存食としては不向きな具を使ったものがたくさんありますので、注意したいところです。 また、最近の傾向として内包されている具が一目で分かるよう、親切にもその一部を外側に露出させているものを見かけますが「見た目の美しさに欠け、おむすびの本道に反する。饅頭の具を外側に出す愚と同質であり、おむすびをかじってみて出会う具の感動に欠ける。」(資料C)という考え方もあるようです。
下表は、50歳以上の回答に着目したアンケート結果です。おそらく若年層やお住まいの地域別に着目すると意外な具がランキングされることでしょう。
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