子供ながら飯炊き名人となった主人公つばきが大人たちに交じって活躍する山本一力(1948〜)の時代小説『だいこん』には、こんな場面が登場します。
橋を渡ったさきの火の見番小屋に、おにぎりを百個届けるからさ。つばきちゃん、頼んだよ。〜(中略)〜五升の米が、九ツ(正午)には炊き上がった。あとは握り飯づくりである。瓶から取り出した梅干のタネを、こども三人が取り除いた。実だけになった梅干を、女房連中が手際よく握る。(参考C)
――これは江戸三大大火のひとつ、1772年(明和9年)に起きた明和(目黒行人坂)の大火の際の炊き出しが舞台となっています。災害の後片付けに奔走する町火消や人足たちに大好評、炊き立ての香り高いおむすびが登場する『だいこん』ですが、これはあくまで小説の上での話、実際に幕府がお救い米として供出したお米のほとんどは「粥」として、罹災者たちに振る舞われていた(右図)そうです。(参考D)
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1657年(明暦3年)の江戸の大火(=振袖火事)の際の炊き出し風景。大釜で作られた粥が振る舞われています。浅井了意著
仮名草子「むさしあぶみ」部分
(東京都立中央図書館東京誌料文庫・蔵) |