平成にはいると全国各地に「おむすびカフェ」が誕生、おむすびはハンバーガーと同じ感覚で食べることができるファストフードのひとつとなりました。13,000店舗ものチェーン店を擁する業界最大手のコンビニが、1年間に販売するおむすびの数は、なんと14億個!(平成20年度実績)(参考O)に上ります。
コンビニ業界全体では20億個を越えると言われています。それにおむすび専門店や、デパートの地下食品売り場、スーパー、惣菜店、お弁当屋さん、高速道路のサービスエリア、外食・中食に、家庭の手作りを加えたら、いったい私たち日本人は1年間に何個のおむすびを食べているのでしょう。この驚くべきデータは、おむすびが押しも押されぬ日本の民族食となっている事を証明しています。
ご存知のように手のひらは「掌」と書きます。「たなごころ」は「手の心」を意味します。(参考Q) 古より、病を患う人の患部への「手当て」は医療の原点であり、心を癒す効果もあるとされてきました。両手を合わせる合掌や、組み合わせる仕草は祈りや感謝、霊力にすがる行為でもあります。手作りのおむすびには、その形や具が何であれ、それを結ぶ人の手によって単なる食べ物ではない「何か」が結び込められています。いつも自分で作って自分で食べているんだろう。おにぎりは人に作ってもらったものを食べるのがいちばんうまいんだ。――これは、群ようこ(1954〜)の小説『かもめ食堂』(参考S)に出てくる台詞。父と二人暮らし、家事一切を引き受ける主人公サチエに、遠足と運動会の日だけ、早起きしておむすびを結ぶ父の呟きです。
今、食の個食(孤食)化が問題視される一方で、一旦はコンビニおむすびに駆逐されたかに見えた家庭の手作りおむすびの逆襲が始まっています。母子・父子でなくてもいい、誰かが誰かのために結んだおむすびと、アツアツの味噌汁だけでお腹も心も充分に満たされ、幸福だった頃の気分と、最上級のスキンシップを、もう一度取り戻しませんか。
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